祈りの旅

日本のどこかでアルゼンチンタンゴを踊っている女のブログです。

2023-01-01から1年間の記事一覧

蜜の肺、蜜の夢

端には蜜色。 神は銀杏の樹に舞い降りた。 豊かな巻き毛のまなざしで。黄金のときは、遠く鐘を鳴らして、わたしたちにおとないました。 地中の蝉の子が身じろぎする。命は戦慄しつづける。ねえ。息が。聞こえませんか。ほら、息が。聞こえませんか。 古代よ…

わたしのさみしい犬

晴れた昼も、そのまま滑らかに下降する夕暮れも、一様に青さを持っている。空が青いから青いのでは無い。容器に入れた水のように、青が充満して、おかげで思考が人にまで知られない。おかげで誰の心も、わからない。 仕事をしているとき。踊り場で誘いを待っ…

飾り羽根、白昼夢

生き損ないのように、ただ息をしている。 もう、12月になってしまった。道ゆく人々が、まるで羊のように、追われせき立てられ歩いているように見える。 どこへゆけばいいのか。わたしは砂金で描かれたカードを、失くしてしまった。 塞がりの景色の中、せめて…

夢みる約束

世界は水彩絵具だ。と、唐突に正面から撃たれたかのように気づくことがある。 滲むように色が変化していく。今日までの繁り。実り。歩みが。少しづつ、染まっていく。晒され揺れて滲み染まり、傷口のように、もうそれは元の色ではない。 それは時に、思いも…

秋の午后

ひとつ、寒い日を迎えたと思ったら、あっという間に色づいた。ゆるやかな風に触られるだけで、からからと落ちていく。 こんなに軽くなったのね。睫毛のおとないだけでも、乾いた葉脈が数枚地に落ちる。 こんなに、軽くなったのね。だけれど貴方達は決して渇…

淋しい、が降りゆき

今朝は雨が降ると知っていた。 朝の支度をしていると、あまりに静かだったから、もう降っていないのだと思った。生活に怠惰なわたしは、起きてカーテンや窓を開けて、朝の光や空気や鳥の声を部屋に入れるという習慣が無いせいもあるのですが。 仕事に行くた…

助けて。何から?

公園の樹々が、緑を手放し、みるみる軽くなって。 瑞々しかった時の執着など無しに。いやそれは、自然にとっては、当たり前なのですけれど。 木肌が捲れて剥がれている銀杏の樹がありました。銀杏の幹は、賢者が長い時を経て岩や樹と成り果てたかのように、…

内出血

11月らしからぬ暑さが続きますが、少しずつ紅葉しています。 まるで身体の内側から、血が滲み出すみたいに。 …だなんて考えるのは、人間だけ。 唐紅色の葉っぱが、用水路に落ちて溜まり流れていくのを、生々しいものを見てしまったように目を逸らしたくなる…

さいわいの国

おばあちゃんが亡くなって、ちょうど100日過ぎた日に、おばあちゃんの夢を見た。 おじいちゃんとおばあちゃんに、お水を汲んであげようとして、飲みやすいコップを探すのだけれど、 陶器のお人形を、水平に切ったようなものしか辺りになく、困惑した。 階段…

影になりたい 踏まれてもいい

カベセオが苦手です。もはや嫌いです。 踊り場のマナーなのでしょうが、もっぱら出来ません。 こんなに胸元擦り合わせ近くで踊っていても、あなたの意思や心の裡などまるでわからないのに。まして会場の向かい、またはうんと離れたところから、まなざしで合…

どうしてあなたは踊るのですか?

樹は本当に、生きていくのに良い先生です。地面から、少し斜めに生えていても堂々と立っている。 あんなに人間の肉体と精神をおびやかすように緑を芽吹かせ、あんなに悠々と多くの葉を風に踊らせていたのに。 季節が手をかけるせいで裸木になりつつあっても…

アンチ・コミュニケーション

子供のころは、よく指をクルクル回してトンボを捕まえていたものでした。 ; 夕陽の中、トンボが薄い翅を伏せて綺麗に葉に止まっていて、写真を撮ろうとするとわたしのスマホでは、なかなかピントが合わない…… そうこうしているうちに、ぶわっ。と手の甲を風…

天女物語

アキアカネやホウジャクを、追いかけていたら、日が暮れてしまった。 周りは家族連れやカップルが手繋ぎ、賑わい通り過ぎていって……わたしひとりだけ、草の鳴る丘の夕暮れに暮れていく。 やがて葉は枯れ草に。かさかさ音して声無く、さびしい。 タンゴやワル…

おとぎ話

新宿御苑のプラタナス。人に植えられたまま、お行儀良く並んで立っている。 人にどうかされようと、自然の儘になろうと、彼らは長い睫毛伏せて、静かに静かに黙りこくっている。 プラタナスがとっても大好き。幹のまだら模様が良い。大きな葉っぱが良い。 あ…

サキマスヨウニ。サキマスヨウニ。

十月桜が、ちらほらと花を付けていました。 急に空気が、冷たくなりました。 きっと、空が、今日は高かったでしょう。そんな空気でした。でも今日は、お空をあんまり、見ないで歩いてきてしまった。 今日も、わたしが居ることができるミロンガがあって、とて…

ファースト

良くない夢を見た。わたしったら、おかしな時間にうとうとしてしまったから……。 お母さん。お母さん……と半狂乱になる。ああもう時間がないの。このままではひとりで部屋にいられない。まるでしんでしまいそうなの。このままでは……………… 急いで顔を洗ってお顔…