夢みる約束
世界は水彩絵具だ。と、唐突に正面から撃たれたかのように気づくことがある。
滲むように色が変化していく。今日までの繁り。実り。歩みが。少しづつ、染まっていく。晒され揺れて滲み染まり、傷口のように、もうそれは元の色ではない。
それは時に、思いもよらず。知らずのうちにしていた堅い約束のように。かなたより到来する予知夢のように。遠い過去から、パルスする。
驚くほど分岐している樹に出会った。
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ペアダンスを踊っていると、「親和性」という言葉が目に浮かぶ。どれだけ親和性高く、あなたと踊れるか。
世界は水彩絵具だ。ここは音楽という液体に満ち満ちているし。時間は魔的に厖大な溶媒と成り果てている。わたしたちはあっという間に、水溶性の形のそぞろなものとなる。
あなたはわたしを侵食し、わたしはあなたに侵食する。そうしてたちまち、今日までの歩みが。無残な程一気に、忘却されて。
ああ。わたしこの人とふたりで懸命に、一大事業を成し遂げようと、生きてきたのだ。生きていくのだ。
そう、錯覚する。
……だって、こんなに、宿命のような音楽が、鳴り降り注ぐのだから……
……タンダが終われば霧が晴れたように、そんな幻想は残り香もなく消え失せる。
一大事業よ、さようなら。かりそめの記憶よ、さようなら。サヨナラダケガジンセイダ、を幾層も幾層も重ねて通り抜けて。夢の中の盛大な砂の上の歩み。ひとさしの、ほほえみ。
──それでも、一心に、身をこがすように思っておりました。ひとしきりに、あなたとの。茨の細径を掻い潜って歩を進め、血と歓びで織り上げた、一大事業を。