祈りの旅

日本のどこかでアルゼンチンタンゴを踊っている女のブログです。

影になりたい 踏まれてもいい

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カベセオが苦手です。もはや嫌いです。

踊り場のマナーなのでしょうが、もっぱら出来ません。

こんなに胸元擦り合わせ近くで踊っていても、あなたの意思や心の裡などまるでわからないのに。まして会場の向かい、またはうんと離れたところから、まなざしで合図を送られましても……。

愚かなわたしには、わかりません。見えません。目が悪いせいではなく…見えないのです。

もはや、ほんとにわたしは目が悪いのかもしれません。

わたくしは魅力のあまりあるとは言い難い、小さな女ですから、あなたはわたしの隣の人をご覧になってるに違いないし。そう、そうでしょう。わたしは人から愛されづらい女であるし、誰からも選ばれる自信が無いの。期待するのが、恥ずかしいの。それにお誘いを首を長くして受けるなんて、たいそう、その、破廉恥に…だらしなく感じるの。

 

そう、それに……

 

あなた。ご足労なしにそんな遠いところから、わたしに指し示さないで。

わざわざこちらへ、いらっしゃってみたらいかが?だらしなく手なんか差し出してみたりして。一言、何かお言いなさいな。

心で、跪いて乞うてみてください。踊ってください、と。

ちょっとした、あなたの犠牲が欲しいのです。

上手にしてくださったなら、わたしもあなたに、かしずいて差しあげる。

影のように。あなたに寄り添って差しあげる。または音楽そのものに、普段縮こまりがちの神経質なこの身体を、形をみるみる失わせてください。豊かに波打ち昇華させてください。

ねえ。そんな高いところに、いらっしゃらないでください。遠いところに、いらっしゃらないでください。

あなたも、わたしの影になってくださりますか?